1997.11.24
「地方公共団体の外部監査人」(上)
特別企画
対談 自治省行政局長が解説する
「地方公共団体の外部監査人」(上)
-ムダ使い監視に“新風” -
自治省行政局長 松 本 英明
公認会計士・税理士 長 隆
「納税通信」1997 年11 月24 日掲載
地方自治法の改正で都道府県などの財政を監視する新しい外部監査人制度創設され、スタートするまで秒読みに入った。これは地方公共団体の会計・経営について、外部のお目付け役がチェックするというもの。そのお目付け役には、公認会計士や税理士の登用が予定されている。すなわち職業会計人にとっては新しい職域となるわけだ。そこで、今号から3回にわたり、制度創設に携わった自治省行政局長の松本英昭氏と監査人側の公認会計士・税理士の長隆氏に、制度のあらましやポイントについて語ってもらった。
議会の承認を得て選任 松本
「3年任期」には高い評価 長
長 今回の地方自治法改正では、専門用語、特殊な用語が法律の条文に使われておりますので読者、国民にとってやや難解であり理解していただけない点があるのではないかと思われます。そのため今回の対談ではやさしく、わかりやすく解説していただきたいと思います。
最初に今回の地方自治法改正、特に外部監査制度につきましてその改正の背景とあらましについてうかがいたいと思います。
松本 これまでも地方公共団体には、監査委員制度がありました。監査委員は、執行機関のひとつなのですけれども、他の執行機関とは異なり中立的な立場で地方公共団体の事業の執行状況あるいは財産の状況を観察的な見地から監査をしてその成否を調べるということを職責としています。監査委員会制度は、あくまで地方公共団体の組織のなかの存在です。そういう意味からこの監査委員は職務を行う際に中立的な立場で行うといっても、どうしてもその地方公共団体との関係で緊張関係に欠ける点があるのではないかという議論があります。それで、平成3年の改正でそういう点の改善をしたのですけれども、なお、問題が指摘されていました。地方公共団体の活動に対して国がいろんな形でチェックする仕組みが現在、広範囲にあるわけですが、地方分権ということになってきますと地方公共団体自ら決定することの質と量が増えると同時に、それに対して自ら責任をとっていくという体勢が必要になってきます。その責任をとるということとの関係で自分で自分の仕事をチェックしていくことが一層重要になるわけです。
もうひとつは近年厳しい批判を受けておりますような地方公共団体の不正経理などの問題が現行の監査の仕組みの中では指摘されてこなかった。そういうことから、どうしても地方公共団体の組織の中で地方公共団体の公務員として監査委員が監査をするというだけでは十分ではないのではないだろうかという見方が強くなってきたわけです。どういう点で十分ではないかというと、ひとつは独立性と専門性という視点から、もうひとつは、先ほども申し上げましたように緊張関係に欠けるということ。住民の側から見た場合、信頼性という点で限界があるのではないかという批判があるわけです。
そこで地方公共団体の組織外の外部の目、地方公共団体の中の組織ではない、地方公務員ではない者によって地方公共団体の仕事をチェックしていただこうという制度が必要だろうということで、外部監査制度が新たに創設されることになり、地方自治法の改正が行われたわけです。
長 そこで、今回の財政構造改革の閣議決定との関連ですが、現在、地方交付税制度というのはこのままの状況でありますと、かなり非効率化が続くのではないかということで、地方財政システムの改革が必要ではないかという考え方もあるようです。そういうことも、今回の外部監査人制度の導入に関係あったのでしょうか。
松本 直接関係はないですね。財政構造改革の論議について、いまおっしゃったことは、必ずしも正確ではないと思います。少なくとも財政構造改革における交付税等との議論と今回の外部監査人制度の問題とは直接関係はありません。 地方分権推進法が平成7年の5月に成立しているわけです。その中に地方分権にともなう地方側の行政体制の整備、確立ということが基本的方針のひとつとして掲げられています。その地方の行政体制の整備、確立というものの中身が、いろいろあるわけですけれども、そのひとつにチェック機能の強化があるわけです。直接的には、底から具体的検討が始まったといえると思います。
長 さきほど話が出ました独立性と専門性についてですが、独立性の問題につきまして現行の地方自治法でもかなり強い権限が監査委員に与えられているにもかかわらず、監査機能が十分に機能していなかった。ある都道府県にあっては監査事務局自体が不正にかかわっていたという報道もありますし、その辺が納税者からしますと独立性に問題があったのかなということは分かるんですが、一方、重複する制度ではないかという疑問もありますが・・・・。
松本 さきほども申し上げましたように、地方公共団体のチェック機能というものにいろいろ批判があるわけですが、その原因は制度からくるものなのか、運用からくるものなのかという議論があったところです。多分に運用の問題ではないかという指摘もありました。
しかし、やはり基本的には地方公共団体の組織内部で、そして公務員として当該団体の監査を行っていくというのは、監査の職務に携わる職員も含めて公務員であるわけですから、それは制度としてもやはり一定の限界があるのではないか。そういうことで、新しく外部監査制度を導入して対応していく必要があるだろう。こういうことが結論だったわけです。
長 次に独立性の問題ですが、外部監査人の事実上任期3年の件は、日本の監査制度のなかで極めて画期的な制度で、すばらしい仕組みであると思います。この事実上任期が3年と厳しく制限された点の背景などについてうかがいたいと思います。
松本 これは、外部監査制度を検討している過程のなかで、地方制度調査会で検討されてきたわけですが、もし外部監査人が地方公共団体と長い期間、契約関係にあるということになれば、結局それは当該団体の公務員と同じようになってしまうのではないか、もちろん特別職の公務員ですけれども・・・。そういう意見が出てきたわけです。
また、執行部や議会、とくに首長さんに都合のいい人をずっと、外部監査人にする事ができるのではないか、そうすると、それは外部監査人として制度が期待していることとは異なってくるだろう。
そこで任期は一年ですけれども、更新を考えたうえで最長でどれくらいがよいかを考えたときに、ご承知のように首長も議会議員も任期が4年ですから4年のうちには必ず1回は交替してもらう、そういう発想から3年、連続して3回までという制度になったわけです。
長 一般企業との比較からするとこの制度は評価が高いのではないかと思います。一般企業の公認会計士監査制度には10年任期制度を導入しようとういうところですが、独立性を真に高められる形で実行できるかどうかが注目されます。企業監査の公認会計士制度が現在、国民の信頼を必ずしも十分得ていないところがありますから。後任者にレビューされますから、独立性と同時に他の監査人のチェックも事実上受けざるを得ない。独立性が一層保証されると思います。
次に選任の方法ですが、法律を読みますと首長さん、あるいは監査委員が選任して議会の承認を得ることになると思うのですが、これにつきましてはある程度具体的にお考えのところがあるのでしょうか。
松本 議会の議決を得ることになっているわけですが、外部監査人は地方公共団体として選ぶわけですから、地方団体の議決機関である議会の議決を経るというのは当然だろうということです。その提案をだれがするのかというのは、いろいろ議論がありました。
長 そうでしょうね。
松本 首長が提案をしたのでは、首長の都合のいい人を選んでくるのではないか。あるいは執行機関に都合のいい人が選任されるのではないかという意見もあったのですが、地方自治法では議会への提案権は執行機関の中で長が行うことになっています。議会が選挙するという方法もあるのですが、考えてみますと、果たしてそういう専門性の高い人を議会が選挙することが適当かどうかということもあって、やはり長の方から提案するのがいいだろうということで、結局外部監査契約の内容として議会が議決をすることとしたわけです。
長の側からもし問題のあるような人の提案があれば、これは当然議会のほうでチェックしていくことになろうかと思っています。
長 具体的に今後、外部監査人の監査では、どのような監査が行われ、また監査の対象には何が選ばれるのでしょうか。非常に多くの事務とか経営が地方自治体法に書いてありますが、その全般に対して、一律に毎年行われるのですか。
松本 今度の外部監査人による外部監査制度については大きく二つに分けております。ひとつは包括的に行うもの。包括外部監査契約に基づく監査といっているもので、年度ごとに外部監査契約を結んで随時に外部監査人が特定の「事件」について監査するというもの。
もうひとつは個別外部監査契約に基づく監査。これは住民からの請求、あるいは議会からの要求、長からの要求が外部監査人に監査してもらいたいということを付け加えてなされた場合に行われるものです。
地方公共団体の現行の監査のなかの定期的な監査、決算検査、出納検査というのは本来の監査委員が行う。包括外部監査契約に基づく監査は随時に行う監査を対象にする。それから個別外部監査は要求監査を対象にする。そういう限定がついているわけです。したがって外部監査制度が広範な監査のすべてを対象としているわけではないということです。
(つづく)
松本英昭 氏
昭和39 年東大法卒、自治省入省、財政局地方債課長、行政局行政課長、官房審議官、総 務審議官、国土庁地方振興局長、平成7 年現職。京都府出身
長 隆 氏
昭和39 年早稲田大卒、同56 年東陽監査法人代表社員に就任。日本赤十字社病院経営審 議会委員、自治省地方公営企業アドバイザー。静岡県出身
