2005.06.13
医療法人の設立における諸問題 安松 奈穂
日本医療情報センター「メディカルマネジメント」2005年6月号
医療法人の設立における諸問題
東日本税理士法人 税理士 安松 奈穂
(リード文)
医療法人を設立するとあらゆるメリットを享受できる。しかしながら、その設立過程における行政との交渉で様々な問題を指摘され、その解決方法に悩み、結果自らの意思とは異なる結果を強制されるような場合もある。このような事態を回避する対策として、医療法人設立における諸問題について解説していく。
医療法人の設立スケジュール
医療法人の設立申請はいつでも行えるわけではなく、自治体によって申請時期が決められている。スケジュールは図のようなパターンが多く(※2)、仮申請から設立認可書の交付まで通常5ヶ月くらいはかかり、仮申請前の申請書の準備と認可書交付後に登記が完了するまでそれぞれ1ヶ月くらいかかるため、それを念頭に置きながら申請時期を検討しなければならない。
医療法人の役員と一人医師医療法人
医療法人は、医療法の規定により原則として理事3名以上および監事1名以上の役員を置かなければならない。なお、医師又は歯科医師が常時1名または2名勤務する診療所を1ヵ所のみ開設する医療法人の場合には、都道府県の認可を受ければ、理事は1名または2名でもよいとされている。ただしこの場合、社員は3名以上としなければならない。これが、いわゆる一人医師医療法人といわれるものである。一人医師医療法人と通常の医療法人の違いは前述の事項以外はほとんどない。
役員には欠格事項(医療法第46条の2第2項)があり、成年被後見人または被保佐人などは役員になれないが、当該医療法人と取引関係のある営利企業の役員などは実質的に認めないとしている自治体もある。
理事長は原則として医師又は歯科医師である理事の中から選出することとなっているが、合理的な理由があればそれ以外の者が理事長となることも可能である。
また、医療法人の開設するすべての病院、診療所または老人保健施設の管理者に関しては必ず理事に加えなければならない。ただし、社員に加える必要はない。
監事については、理事や当該医療法人の職員は就任することはできないが、それ以外にも当該医療法人と利害関係がある者や他の役員と親族等の特殊の関係がある者は就任できないとされている。自治体によっては、顧問税理士等もこの利害関係者にあたるとしているところもある。
医療法人への出資
社団医療法人は、社員が出資することによって運営をしていくというのが原則である。出資に関しては、誰が出資できるのか、出資しなければならないのか、また、いくら出資すべきなのかという問題が出てくる。
誰が出資できるかという点に関しては、基本的には誰でも出資できることになっている。なぜならば、株式会社と違い出資したからといって経営に参画できるわけではなく、あくまでも業務を遂行するのは社員だからである。よって社員でない者や営利法人であっても出資することは可能である。ただし、営利法人は出資したとしても社員として社員総会における議決権を取得することや、役員として医療法人の経営に参画することはできない。
また事前審査の際、社員全員が出資するようにという指導を受ける場合があり、院長以外の社員が形式上の少額な出資をしてしまうことがあるようだが、このような形式的な出資は将来的に大きな問題を起こす原因ともなりうる。なぜなら医療法人は配当が禁止されていることから、含み益が膨大になることが考えられ、出資比率が数%であったとしても、将来的にその社員が退社する場合、出資持分に応じた多額の払戻しを請求できることとなり、税務上の問題やキャッシュフローの面での問題が出てくると予想されるからである。
出資金額については、最低出資額というのは特に規定はないが事前審査では「運転資金の2か月分」の現預金等(医業未収金を含む)を出資するよう指導される。これは昭和61年6月26日付け健康政策局長通知に起因するものだが、なぜ運転資金の2か月分かというと、通常社保や国保の保険請求分は2ヶ月遅れで入金されるためである。
モデル定款について
医療法人の定款は、厚生労働省が定めたモデル定款に準じて作成される。社団医療法人のモデル定款については、このとおりに作成すれば医療法上も税法上も問題が発生することはないが、特別な事情がある場合には、必要に応じてモデル定款を変更しなければならない。このようにモデル定款の内容を変更しようとすると、事前審査で「モデル定款の内容と相違するので認められない」という指摘を受けることがある。しかしながら、平成16年8月13日付け厚生労働局医政局長通知では「医療法人の監督における定款の認可に当たりモデル定款から一切の逸脱を認めないといった硬直的な運用は、これを設けた本来の趣旨に照らし適当でない」とされており、定款は医療法に違反しない限り自由に決めてよいものなのである。
開業と同時に医療法人になれるか
医療法人になるとさまざまなメリットがあるが、開業当初から相当の収益が見込まれる場合、金融機関等からの借入れを考えている場合には、開業と同時に医療法人を設立した方が有利であると考えられる。
しかし、事前審査では一定の経営実績を求められるケースもあり、経営実績がないと申請を受け付けないとしている自治体もある。一定の経営実績を求めるのは、医療法人が経営不振により解散せざるを得なくなるような事態が生じたときに、認可した自治体側にも責任が生じてくるのを恐れているからではないかと思われるが、医療法は一定の経営実績があることを設立の要件とはしていない。さらに、昭和61年6月26日付け健康政策局長通知では「医療法人の設立を認可するに当たって、一定の期間の医療施設の経営実績を要件とすることは望ましくない」とされており、一定の経営実績がないからといって設立認可申請を受け付けないということはこれに反することになり、行政手続条例等に違反する可能性がある。
開業と同時に医療法人を設立する場合には、設立2年間の予算書とその根拠資料、建物等の賃貸契約書の案など、確実に開業でき、かつ、将来的に安定した経営が出来るということを立証するような資料の添付が必要となる。また、先に述べたとおり仮申請から法人設立登記まで半年くらい要するため、申請時期をいつにしたらよいのかを検討する必要があるだろう。
参考文献「医療法人設立なるほどQ&A」東日本税理士法人編 安松奈穂著

